TCI:気質と性格を分けて見る検査、そして分けて見ることの限界
TCI(気質・性格検査)は、遺伝の影響が大きいとされる気質4次元と、発達や経験が働く性格3次元に分けて性格を測る検査です。クロニンジャーが1993年に提示しました。
TCI が他の性格検査と分かれるのは因子の数ではなく、性格を二層に分けた設計です。生まれつきの反応傾向と、生きるなかで作られた自己概念を、別々に測ろうとしました。
1. 二層に分けた設計
クロニンジャーは性格を気質(temperament)と性格(character)に分けました。
気質4次元——刺激に対する自動的な反応傾向で、比較的早く現れ、遺伝の影響が大きいと見ました。
| 次元 | 高いとき |
|---|---|
| 新奇性追求 (NS) | 新しいものに惹かれ、飽きやすい |
| 損害回避 (HA) | 心配が先に立ち、慎重 |
| 報酬依存 (RD) | 承認や情愛に敏感に反応する |
| 固執 (P) | 報酬がなくても長く続ける |
性格3次元——何を目標とし、自分をどう見るかに関わるもので、発達し変わりうると見ました。
| 次元 | 高いとき |
|---|---|
| 自己志向 (SD) | 自分で決め、責任を取る |
| 協調 (C) | 他者を受け入れ、共にやる |
| 自己超越 (ST) | 自分をより大きな何かの一部と感じる |
この区分の効用は、成熟を測る軸を別に置いたことにあります。自己志向と協調が低ければ気質がどうであれ適応が難しいと見られ、TCI が臨床で使われた理由もそこにあります。
2. あまり支持されなかった部分——神経伝達物質の対応
TCI を紹介する文章がほぼ必ず載せる箇所があります。新奇性追求はドーパミン、損害回避はセロトニン、報酬依存はノルアドレナリンに対応する、という説明です。
これはクロニンジャーが1987年に提示した仮説であり、その後の研究ではあまり支持されませんでした。 特定の気質次元が特定の神経伝達物質系に一対一で対応するという証拠は十分に積み上がっていません。
模型そのものが崩れたという意味ではありません。次元の記述的な有用性と、それが生物学的にどう実装されているかは別の問題です。ただし「私の損害回避が高いのはセロトニンのせい」という文は、検査結果が裏づけてくれません。
3. 「気質は変わらない」も言い過ぎ
気質を変わらないもの、性格を変わりうるものとする二分法も、実際より硬い言い方です。
気質次元も遺伝率は中程度で、年齢とともに変わります。 新奇性追求はおおむね下がり、固執は上がる傾向が報告されています。逆に性格次元も自然に育つわけではありません。
正確に言えば、二層の違いは変わるかどうかではなく、何についての次元かです。気質は刺激にどう反応するか、性格は何を目標とし自分をどう見るかです。
4. では結果をどう読むか
- 気質の得点は良し悪しではありません。 高い損害回避は慎重さであり回避でもあり、低い損害回避は大胆さであり無謀さでもあります。方向を示すだけです。
- 手を入れる余地があるのは性格の側です。 損害回避を下げようと努めるより、心配性の自分を連れて何をするかを決める側(自己志向)が実行可能です。
- 自己報告であり、臨床目的から出ています。 結果を診断として読まないでください。TCI は臨床で使われますが、得点そのものは診断ではありません。
参考文献
C. Robert Cloninger, Dragan M. Svrakic & Thomas R. Przybeck (1993) A psychobiological model of temperament and character, Archives of General Psychiatry 50(12) — 気質4次元・性格3次元という構造の原典。
C. Robert Cloninger (1987) A systematic method for clinical description and classification of personality variants, Archives of General Psychiatry 44(6) — 気質と神経伝達物質を対応させた最初の仮説。
Kerry L. Jang et al. (1996) Heritability of the big five personality dimensions and their facets, Journal of Personality 64(3) — 性格次元の遺伝率が中程度だという双生児研究の標準的結果。
Brent W. Roberts, Kate E. Walton & Wolfgang Viechtbauer (2006) Patterns of mean-level change in personality traits across the life course, Psychological Bulletin 132(1) — 性格特性が生涯にわたり体系的に変化するというメタ分析。
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