厄除け(액땜): 小さな不幸で大きな不幸を先に払うという考え
皿を割っても「厄が落ちた」と言う理由、三災・冬至の小豆粥・厄払い凧・チェウン流し・符といった実際の方法、そして儀式が不安を下げるという心理学研究までまとめます。
最終確認 2026-09-21
皿を割って笑う人たち
韓国では物が壊れたり小さな事故が起きたりすると、周りの人がこう言います。「액땜했네(厄を払ったね)」。
改めて見ると妙な慰めです。いま損をしたのに、よかったことだと言われるのですから。ところがこの言葉にはかなり精密な構造が入っています。厄(厄)を繕った — 迫っていた大きな災いがあり、いまの小さな損がその穴を代わりに埋めた、という意味です。鍋に穴が空いたら金物を当てて塞ぐように、運に空いた穴を小さなもので先に塞いだ、という比喩です。
前提は二つあります。ひとつは不幸の総量が決まっているという考え、もうひとつはその総量は大きさを変えて払えるという考えです。前者だけなら諦めになりますが、後者が加わった瞬間に態度が変わります。黙って受けるかわりに、自分から進んで小さく払う側を選べるからです。
厄除けの風習はほぼすべてこの二つ目の前提の上に立っています。不幸をなくそうとするのではなく、払い方と大きさを自分で選ぼうとするのです。
厄が来るとされる時期
厄除けはいつでもやるわけではありません。厄が集まるとされる時期があり、風習はそこに集中します。
三災(삼재)
最も広く知られているのが三災です。12年に一度、3年のあいだ厄が入ると見ます。生まれ年の干支を四つの組に分け、組ごとに三災の年が決まっています。
| 干支の組 | 三災の年 |
|---|---|
| 申・子・辰 | 寅・卯・辰の年 |
| 亥・卯・未 | 巳・午・未の年 |
| 寅・午・戌 | 申・酉・戌の年 |
| 巳・酉・丑 | 亥・子・丑の年 |
三つの年にはそれぞれ名があります。入ってくる年が入三災、留まる年が臥三災、出ていく年が出三災です。民間では入三災を最も重く見て、出三災はむしろ解けていく年と捉えることが多いです。
三災の数え方そのものは五行から来ています。干支の組は三合で結ばれた地支であり、三災はその気が尽きて墓に入る位置にあたります。占術的な解釈を取り除けば、12年周期のなかで特に用心せよと印をつけた3年という暦の装置に近いものです。
九のつく年齢
九で終わる年齢(19・29・39…)を避ける慣習も同じ系列です。次の段階へ移る直前、つまり境界に立つ年を危険と見ます。世界の多くの文化が通過儀礼を置く地点と正確に重なります。
節気と節日
一年の節目ごとに厄除けが結びつきます。冬至、正月元日、正月十五日が特に密です。年が変わる地点、夜が最も長くなってから短くなり始める地点のように、何かが裏返る時点に厄が出入りすると見たのです。
実際に何をしたか
厄除けは考えではなく行動でした。記録と現行の風習で確認できる代表的な方法です。
冬至の小豆粥
冬至に小豆粥を炊いて食べ、門や甕置き場に撒きました。赤い色が悪い気を退けるという観念が下敷きです。食べることと塗ることが一つの行為に入っており、体の内と外を同時に扱う点が特徴です。
正月十五日のプロム(부럼)
落花生・くるみ・栗など硬い殻の実を歯で噛み割りました。割る音で邪鬼を追い、その年はできものが出ないとされました。ここでも小さな破壊が大きな破壊の代わりになるという厄除けの基本構造がそのまま見えます。
厄払い凧
正月に凧を揚げ、十五日ごろに糸を切って飛ばしました。凧にはよく 送厄迎福(厄を送り福を迎える)や自分の名前と生年を書きました。厄を体から剥がして別の物に移し、その物を捨てる構造です。
チェウン(제웅)流し
正月十五日の前夜、藁で人の形の人形を作りました。中に自分の年齢の数だけ銭と、名前・生年を書いた紙を入れて道に捨てました。子どもたちがそれを拾って銭だけ取り、藁を壊すのですが、この壊れることがすなわち厄が散ることでした。
チェウンは厄払い凧と同じ原理をさらに押し進めたものです。厄を移す身代わりを作り、その身代わりが代わりに壊れます。
符(부적)
そして符があります。上の方法が概ね特定の日に縛られているのに対し、符はいつでも書けて身につけられる点で用途が広いものでした。
符は絵ではなく文字である
符を初めてよく見ると、たいてい「何の絵か分からない」という印象を受けます。ところがその印象自体が誤解から来ています。符は基本的に絵ではなく文字です。 読める漢字、読みにくく変形した漢字、そして星座のような記号でできています。
材料
伝統的には黄ばんだ韓紙に朱砂(しゅしゃ)で書きました。朱砂は赤い鉱物顔料で、赤が厄を退けるという観念と結びついています。ここで大事な点がひとつ。符の線が赤いのは目的や五行と関係ありません。 水を補う符だからといって青く書いたりはしません。赤いのは素材の問題で、中身は文字が担います。
構造
符は上から下へ読みます。大きく三つの部分です。
- 頭(頭) — 一番上に点や線を立てて気を呼び込む場所です。三つの点を打つ形が多く見られます。
- 胴 — 中央に最も大きな字を置きます。その符が何をしようとしているかがここにあります。
- 尾(尾) — 下に短い句を縦に下ろして結びます。
ここに北斗七星がよく入ります。柄杓の形につながった七つの点がそれです。北斗七星は韓国の民間信仰で寿命と運を司る星座として長く扱われ、七星信仰という独立した流れを成すほど比重が大きいものです。
なぜ読みにくいのか
符の字はわざと変形されます。漢字を重ねたり、部首だけ取って積んだり、線を長く伸ばしたりします。読みにくくすることが目的の一部だからです。誰でも読み書きできるなら特別な物にはなりません。
ただしこの点のために、符を真似るとき適当な線を引いて符と呼ぶことが容易に起こります。実際の符とそうした落書きを分ける基準は簡単です。紙の上のすべての印に出所があるか — それがどの文字で、どの体系から来たのか言えるか、です。
厄除けはなぜ効くように感じられるのか
ここからは信仰の問題ではなく観察の問題です。厄除けが実際に災いを移すという証拠はありません。それでも厄除けをした人が落ち着くという現象自体は、かなり一貫して現れます。いくつかの説明があります。
儀式は不安を下げる
儀式的行動(ritual)が遂行不安を減らすという実験研究があります。Brooks ら(2016)は、歌唱や暗算といった課題の前に決められた動作を行わせた群が、そうでない群より不安を感じにくく、実際の成績も良かったと報告しています。興味深いのは、その動作が課題と何の関係もなくても効果が現れたことです。
Norton と Gino(2014)は喪失を経験した人たちに同様の結果を観察しました。個人的に作り出した儀式でさえ悲しみを減らし、その媒介は統制感の回復でした。
厄除けはまさにこの構造です。どうしようもないことの前で、できることを一つ作り出します。
事後解釈の余地
「厄が落ちた」という言葉は反証しにくいものです。その後に悪いことがなければ厄除けが効いたことになり、悪いことがあれば厄がもっと大きかったことになります。この構造のおかげで信念がよく保たれます。批判でもありますが、同時になぜこの慣習が数百年もったのかの説明でもあります。
統制の錯覚
Langer(1975)がまとめた統制の錯覚は、偶然が支配する状況でも人が自分の影響力を過大評価するというものです。ただしこの過大評価がいつも損とは限りません。何もできないという感覚が長引くと無力感に固まりますが、厄除けはその地点で小さな行動を一つ握らせます。
今日この慣習をどう扱うか
厄除けは二つの態度で受け取れます。
ひとつは予測装置と見ることです。三災が入ったから今年は事故が起きる、と読む方式です。この読み方には根拠がなく、実際に有害に働きうるものです。悪いことが起きたとき原因を自分の生年に求めさせるからです。
もうひとつは標識装置と見ることです。厄除けがつく場所 — 三災、九のつく年齢、冬至、正月 — はすべて何かが変わる節目です。その節目で立ち止まって一度点検せよという合図として読めば、この慣習は古い形の周期的な自己点検になります。
OIYO は二つ目の態度を取ります。符は書きますが、それが災いを防ぐとは言いません。かわりに紙の上に載った印が各々何で、どこから来たのかをすべて明かします。
一枚受け取ってみる
厄除けの符ツールは生年月日時を受け取り、四柱で足りない五行を見つけ、その五行を中心に符を一枚描きます。紙に載るものはすべて実在する表記です。
- 万年暦の干支八字 — 四柱をそのまま左右に立てます
- 八卦の記号 — 補う五行にあたる卦
- 黄道十二宮の記号 — 太陽が入った宮
- ケルトのオガム文字 — 生まれた日の樹木サインに対応する実際の文字
- マヤ・ツォルキンの音 — 棒が5、点が1のマヤ数表記
作り出した文様は一つも入れていません。同じ生年月日時はいつ開いても同じ符を出します。
参考
- 国立民俗博物館『韓国歳時風俗事典』 — 三災・チェウン・厄払い凧・冬至小豆粥の項
- Brooks, A. W., Schroeder, J., Risen, J. L., Gino, F., Galinsky, A. D., Norton, M. I., & Schweitzer, M. E. (2016). Don’t stop believing: Rituals improve performance by decreasing anxiety. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 137, 71–85.
- Norton, M. I., & Gino, F. (2014). Rituals alleviate grieving for loved ones, lovers, and lotteries. Journal of Experimental Psychology: General, 143(1), 266–272.
- Langer, E. J. (1975). The illusion of control. Journal of Personality and Social Psychology, 32(2), 311–328.